2021-02-25
スコッチ【0072夜】ジェームズ・マセソンとアビンジャラク~その②
ルイス島に約160年ぶりに誕生したのが、ルイス島の西海岸にあるアビンジャラク蒸留所だ。創業したのはマーク・テイバーン氏で、中心地ストーノウェイで建設業、産廃処理業などをやっていた。アビンジャラクとはゲール語で『赤い川』の意味で、てっきりピートをとかし込んだピートの川を連想していたが、蒸留所の横を流れるアビンジャラク川は、透明なジンクリアの水である。なぜ赤い川なのか問うと、それは血の川の意味だという。
昔、ルイス・ハリスはヴァイキングに支配されていた。ヴァイキングは毎年夏になるとロングシップでやってきて、島民から税を徴収していったという。ある時、怒った村人がヴァイキングを殺し、川に投げ入れてしまった。以来、その川はアビンジャラク、赤い川と言われるようになったのだとか。いかにもルイスらしい話である。ちなみにアビンジャラクの近くの砂浜で、大英博物館の秘宝といわれるヴァイキングのチェスの駒が見つかっているが、それは、またいつか…。
アビンジャラクは鮭のふ化養殖場の建物を改装して建てられているが、入って驚くのはそのスチルの異様な姿だ。まるでキリンの首のようなヘッドがついた、どこにもない形のスチルで、初留・再留それぞれ容量は2000リットルだという。マークさんによると、それはルイス島伝統の密造用スチル、ヒルスチルを再現したものだとか。つまりルイス島民はマセソンに禁止されていたにもかかわらず、長いこと谷に隠れて密造を続けてきたのだ。その時に用いたのが、ルイス独特のヒルスチルだという。
もちろんアビンジャラクは関税当局の免許をもらっているので、当局が認める2000リットルというサイズを守っている。蒸留所のゲートのところに本物のヒルスチルが置いてあったが、その容量は100リットルもない。もともと、それでいこうと思っていたが、関税当局にいわれて、仕方なく2000リットルの物を特注したのだろう。ストーノウェイの鉄工所につくらせたのだという。
(上)アビンジャラク蒸留所と、そのすぐとなりを流れるアビンジャラク川。(下)アビンジャラクの独特なスチルは、ルイス島伝統のヒルスチルを再現している。蟹の足のような形にも見える気がする…。 一覧ページに戻る