2021-02-04
アイリッシュ【0062夜】カモメの卵にワラビー、2代目ルパートの奇妙な生涯~その①
コニャックの名門カミュ家がプロデュースし、カミュの樽で後熟を施したアイリッシュウイスキーがある。ランベイと名付けられたウイスキーで、ランベイはダブリン沖に浮かぶ、個人所有の小さな島のこと。もともとヴァイキングが付けた名前で、ランベイで『小羊の島』の意味だ。実はカミュの樽での後熟は、この島で行われているのだ。
ランベイ島は周囲10㎞の小さな島だが、面積でいうと約2.5㎢で、高い山はなく、最も標高が高いところでも127mしかない。島は銀行家で知られたベアリング家の個人所有だが、常時住んでいるのは5~10人ほど。彼らは島で飼っているアンガス牛や羊の世話をしているという。
実はランベイ島の羊や牛は有名で、ラム肉はアイルランド、イギリスの高級レストランのシェフに大人気だとか。島を案内してくれた現当主のアレックス・ベアリングさんによると、「今年(2019年)は160頭の子羊が生まれた」という。アンガス牛はエアリンガス(アイルランド唯一の航空会社)の機内食で“ランベイステーキ”として出されているのだ。
ランベイ島は、バードサンクチュアリとしても有名で、島北部の断崖には毎年15万羽の海鳥がやってくる。アイルランドの東海岸では最も飛来数が多く、数年前には日本の皇室のメンバーが、視察に訪れているほどだ。その中でシンボルとなっているのが、遠くアイスランドあたりからやってくるパフィン(ニシツノメドリ)である。
先々代のルパート・ベアリング卿は愛鳥家としても知られ、一生のほとんどをランベイ島で暮らし、趣味のカメラで海鳥の写真を撮影していた。アレックスさんに案内された邸宅の一室には、そのルパートが撮った鳥の写真が壁一面に飾られ、さながらミニ博物館のようだった。
しかしルパートさんのエピソードで一番面白かったのは、第二次世界大戦中に10万個のカモメの卵を採取し、それをロンドン市民に送ったことである。(0063につづく)
(上)カミュ樽での後熟を施すウェアハウス。ランベイ島の海岸沿いにあり、「The Sea Cask Room」と呼ばれている。(下)ランベイのラベルには、タキシード姿のパフィンが描かれている。写真は「ランベイ・シングルモルト」。 一覧ページに戻る