2021-02-03
アイリッシュ【0061夜】アイルランドを象徴するケルト十字とラウンドタワー
アイルランドにキリスト教を伝えたのはセント・パトリックだとされている。パトリックはもともとウェールズ人(ブリトン人)だったが、幼少時に奴隷としてアイルランドに連れてこられ、16歳くらいまでアイルランドで暮らしたという。その後脱走したパトリックは、ウェールズからフランスに渡り、そこでキリスト教の伝道師となった。そのパトリックが、キリスト教を伝えるためアイルランドにもどってきたのがAD432年のことという。その時パトリックがキリスト教の根本教義である『三位一体』を説くのに用いたのが、三つ葉のクローバーだった。今でも三つ葉のクローバー、シャムロックがアイルランドの「国花」となっているのは、そのためだ。
当時アイルランドではケルト民族固有の宗教であるドルイド教が信仰されていた。文字を持たないアイルランドの民にも分かりやすくキリスト教の教義を説くために建てられたのが、聖書の物語などを彫り込んだ石造りの十字架で、それにドルイド教のシンボルである円環(太陽信仰)を組み合わせた。これがアイルランド独特の“ケルト十字”で、アイルランドやスコットランド各地に当時のものが数多く残っている。
もうひとつ、アイルランドの教会に欠かせないのが、「ラウンドタワー」と呼ばれる、エンピツのように細い石造りの円塔である。長い年月の間に雷などに打たれて、塔頂部が崩落しているものも多いが、ケルト十字と、このラウンドタワーはアイルランドのシンボルといっても過言ではない。
蒸留所見学にアイルランドを訪れたら、ぜひケルト十字やラウンドタワーも見に行ってほしい。ダブリンから車で1時間ほど北上したところにあるのがモナスターボイスの修道院跡で、修道院の建物はほとんど残っていないが、見事なケルト十字と、11世紀頃に建てられたというラウンドタワーが残っている。塔頂部は雷に打たれて崩れ落ち、現在は欠けたままになっているが、これはもともとヴァイキングの侵攻に備えたもので、高いものは30メートル以上もあり、当時の建築技術の高さを物語るものとなっている。
アイルランドの民にキリスト教の教義を説くために建てられたケルト十字(上)とラウンドタワー(下)。当時の聖書はラテン語で書かれており、ラテン語を読めない人々は聖書の内容を理解できなった。キリスト教世界においては、文字(ラテン語)を読めるということが特権だったのだ。 一覧ページに戻る