2021-01-19
スコッチ【0054夜】アイラ島のグレートシール~その②
そのサマーレッドが、マン島のヴァイキングとヘブリディーズ諸島の覇権をかけて戦ったのが、1156年のアイラ海峡の海戦である。自分の息子(実際には孫)のドナルドをアイラの領主にするという約束を取り付けてのことだったが、その時にサマーレッドが使ったのが、ヴァイキング船を改造したナイベイグという船だった。
これはヴァイキングのロングシップを短くしたもので、潮流が激しく、暗礁の多いヘブリディーズの海で戦うために、小回りのきくように改造されたものだ。さらにヴァイキング船の弱点をつく、巧妙な工夫もされていた。それはマストの先端に射座を作り、そこから射手が矢を射れるようにしたのだ。ヴァイキング船の弱点、それは小回りがきかないことと、もう1つは甲板だけで屋根がなく、上からの攻撃、つまり頭上からの矢に対する防御が甘いということだった。
もちろん漕ぎ手にはアイラの男たちが加わり、潮の流れと暗礁を熟知したアイラの男たちが、水先案内人として同乗した。アイラ島周辺、特にアイラ島とジュラ島の間の狭いアイラ海峡(サウンド・オブ・アイラ、ゲール語でカリラ)で、ヴァイキング船を撃破し、これに勝利した。このことで、ヘブリディーズ諸島の覇権をヴァイキングから取りもどしたが、サマーレッドは、その10年後の1164年に本土のグラスゴー近郊で戦死している。
アイラ島は約束どおり、サマーレッドの孫のドナルドが領有したが、そのドナルドの息子がアンガス・モーで、さらにその息子がアンガス・オグである。どちらもゲール語の名前で、モーは大きい、そしてオグは息子、小さいを意味する。このアンガス・モー、アンガス・オグの時代にアイラ島は巧みな外交手腕で栄え、その後の特異な“海洋王国”、ローズ・オブ・ジ・アイルズが形づくられることになった。
グレートシールの4人の人物は、その海洋王国の祖となったサマーレッド、ドナルド、そしてアンガス・モー、アンガス・オグだと考えられているのだ。ちなみに周りの文字はラテン語で、島々の王と書かれているが、これはウイ文研の“Japan Whisky Research Centre”に勝手に変えさせてもらった。いくらなんでも、そのままでは使えないので…。(海洋王国については、また別の機会に)
(上)ヴァイキング船を改造したナイベイグ。中央上部のマストの先端にあるのが射座だ。(下)0053で紹介した、ウイスキー文化研究所のオリジナルピンバッジの”オリジナル”となったグレートシール。 一覧ページに戻る