2021-01-15
アイリッシュ【0052夜】コノートやディングル地方に伝わる奇妙な風習~その②
コノート地方に伝わるストローボーイと似ているのが、同じ西海岸のディングル半島に伝わるレンボーイの風習だ。これを知ったのは、ディングルの町に2015年にオープンしたディングル蒸留所を訪れた時のことで、蒸留所の看板を見た瞬間に、ストローボーイだと思った。
しかし、後で話を聞くと、コノートのそれとは少し違っていることが分かった。頭にかぶる麦ワラの被り物はストローボーイに似ているが、手には麦の穂とカマを持っていて、衣装もまるでロビンフッドに出てくるような、それこそ森の民のデザインだ。案内してくれた蒸留所のマネージャーの話によると、ディングルではストローボーイと言わずレンボーイと呼ぶという。レンはスズメ科の小鳥のことで、畑の生け垣や家の軒下などに巣喰い、うるさくさえずる小鳥だという。
ストローボーイが結婚式などに乱入して歌や踊りを披露するのに対し、ディングルのレンボーイは、何かの行事の時に町を練り歩くという。それがどんな行事なのかは聞きもらしたが、全員が麦ワラの奇妙な被り物をして跳ねたり奇声を上げたりして、町中で大騒ぎするという。その時、被り物をするのは悪魔に顔を見られないようにするためで、もし顔を見られたら、その人は命を落とすことになるという。つまり、レンボーイは悪魔払い的な意味を持っていて、それ故、顔を隠すということになったのだろうか。
ディングル蒸留所のあるディングル半島一帯は1845年から46年にかけてのジャガイモ飢饉の時に、もっともその被害が大きかった地域で、多くの町や村が壊滅状態に陥った。一説によるとアイルランドで100万とも200万とも言われる死者を出したが、特に南西アイルランドでその被害が大きく、埋葬が間に合わなく、人々は教会の墓地に遺体を放置せざるを得なかったという。それが山のように積み上がり…。
まるで、現在のコロナ禍を見ているかのような話だが、その悪魔を追い払う儀式がディングルのレンボーイだったのかもしれない。
(上)ディングル蒸留所のスチルは、フォーサイス社製で計3基。(下)ディングル蒸留所のシンボルになっているレンボーイ。同じアイルランドの発祥で、今や日本の国民的行事(?)となったハロウィンの仮装も、もともとは町に現れる悪魔を追い払うために始まった風習だというから興味深い…。 一覧ページに戻る