2021-01-14
アイリッシュ【0051夜】コノートやディングル地方に伝わる奇妙な風習~その①
アイリッシュの妖精の話が出たついでに、コノートやディングル地方に伝わるストローボーイ、レンボーイの奇妙な風習にも触れておきたい。
ストローボーイというのは文字通り麦ワラの奇妙な被り物をした人達のことで、このストローボーイが結婚式の時などに会場に乱入し、そこで歌ったり、踊ったりするのだとか。まるで秋田名物のナマハゲのような話だが、これが来るとそのカップルが幸せになると信じられている。今では結婚式の催しとして予定調和的に仕込まれているということだが、その時に“お礼”として振る舞われたのが、ポチーンと呼ばれるアイルランド伝統の密造酒だ。
密造酒のことはスコットランドではムーンシャインと言ったりするが、酒そのものより密造それ自体を表す、スマグリングとかスマグラーという言い方の方が一般的だ。それに対してアイルランドでは伝統的にポチーンと言ってきた。これはポット、鍋とか器(蒸留器)から派生した言葉で、かつてアイルランドではこの密造酒を造るところが、何千、何万と存在したといわれる。というか、どこの農家でもポチーンを造っていたし、人間だけでなく、妖精も造るお国柄である。今ではIWAによってレギュレーションも定められ、モルトウイスキーやポットスチルウイスキー同様、EUが認めるGI製品となっている。
コノート地方のバリナにある、その名もコノート蒸留所に行った時に、このポチーンをボトリングして売っているのでテイスティングさせてもらった。そのポチーンのブランド名がストローボーイで、初めてアイルランドに、そんな風習があることを知った。被り物の実物も見せてもらったが、見れば見るほど不思議な麦ワラの被り物である。
この蒸留所があるバリナは、アメリカ次期大統領のバイデン氏の先祖が住んでいた町で、大統領が生まれたペンシルベニアのスクラントとは姉妹都市になっていることは、この千夜一夜の0015でも紹介している。(0052につづく)
(上)かつてパン工場だった建物を改造したコノート蒸留所。(中)ストローボーイの被り物。次回投稿するレンボーイの写真と、ぜひ見比べてほしい。(下)「ストローボーイ」の名を冠したポチーン。ラベルのイラストが実物とそっくりである。 一覧ページに戻る