2021-01-09
スコッチ【0048夜】ポリティシャン号沈没から80年。ウイスキーガロア物語~その③
0046、47とポリティシャン号の座礁事件について紹介したが、この事件を題材に、スコットランド出身の作家で、ジャーナリストであるコンプトン・マッケンジーが書きおろしたのが、小説『ウイスキーガロア』(未翻訳)であった。これは今でも、イギリスのロングセラーとなっているが、これをもとに映画化したのが1949年の『Whisky Galore』であり、それをリメイクしたのが2016年のウイスキーガロアで、これは日本でも『ウイスキーと2人の花嫁』というタイトルで公開されている。
イギリスではポリティシャン号にまつわる多くのドキュメント、本が出ていて、また今でも時折、当時のボトルが発見され、それがオークションで高値で落札されたりしている。エリスケイ島では第2次世界大戦後、長くパブが再建されなかったが(1軒あったパブは戦後すぐに廃業)、1990年代に、その名も『ポリティシャン号』というパブがオープンしている。実際私も訪れたことがあるが、その売りが、海底から引き揚げられたウイスキーのボトルだった。それが写真の3本で、銘柄はスペイロイヤル、ホワイトホース、そしてバランタインである。
実はポリティシャン号の積み荷は“ポーリー”と言われていて、ウイスキーの次にコレクターズアイテムになっているのが、幻のジャマイカ紙幣である。船にはイングランド銀行が刷った、ジョージ6世の肖像画入りのジャマイカ紙幣が大量に積まれていたが、これも当然流失。その後、しばらくの間ヘブリディーズの海岸には、この見慣れぬ紙幣が流れついたという。子供たちはそれを拾い集め、バンカーゲームなどのボードゲームで、おもちゃの紙幣がわりに使ったというから、面白い。この紙幣は、公式には一度も使われたことがない幻の紙幣となったのだ。
ちなみにポリティシャンというのは政治家のことで、その後長く、「歴史上、民衆のために働いたこれが唯一の政治家」と言われたものである。
どこかの国の政治家にも教えてあげたい。
(上)実際に船に積まれていたウイスキーのボトルたち。左から順に、バランタイン、ホワイトホース、スペイロイヤル。(下)1990年代にエリスケイ島にオープンした『ポリティシャン号』。 一覧ページに戻る