2021-01-08
スコッチ【0047夜】ポリティシャン号沈没から80年。ウイスキーガロア物語~その②
当時のエリスケイ島の島民の嘆きについては、戦後につくられた『Whisky Galore』という映画(1949年、イーリングスタジオ製作)の冒頭で、こう述べられている。
「ヘブリディーズ諸島の小さな島、エリスケイ島は、かつて経験したことがないような未曾有の危機に陥っていた。それはドイツ軍の脅威でも、食糧難でもなく、ウイスキーが島に一滴もないことだった…」。
文字どおりウイスキーはヘブリディーズの人々にとっては“命の水”。それがパブから消えてしまったのだから、それは一大事。映画はユーモアたっぷりに、そのあたりのことを描いているが、パブに集まって紅茶をすする男たちの姿は滑稽ですらあり、中には寝込む者もいて、さらにこれはフィクションだろうが、主人公の2人の娘の結婚も、「ウイスキーがないのなら式は挙げられない」と、父親からも神父からも断られる始末。…そこへ降ってわいたのが、26万本のウイスキーだったのだ。
船長以下の乗組員は居てもらっては困るので、すぐに本土に送り届けたが、2つに割れた船体はいつヘブリディーズの海に沈んでいくか分からない。島民はすべての船を出し、闇夜にまぎれて運べるだけのウイスキーを持ちだしてしまった。その正確な数は分からないが、後にサルベージにやってきた警察と保険会社の調べによると数万本におよんだという。
島民は、あらゆるところにそのウイスキーを隠した。家の床下や屋根裏なんて、生やさしい。なんと壁を壊し、すき間に埋めこんだ者もいたし、当時、家畜小屋やピート小屋も、すべてウイスキーの隠し場所として使われた。それでも数万本のボトルは隠せない。しまいには島のあちこちの洞窟や、ウサギの穴にも隠したというから凄まじい。もちろん、手っ取り早く胃袋に隠すという手もあり、人々は朝から飲んだくれ、島中がベロベロになってしまった。
これがウイスキーガロア、ウイスキーがいっぱい(ガロアはゲール語で沢山の意)というタイトルの意味なのだが、酔っ払ったのは人だけでなく牛や羊、馬にいたるまで島のあらゆる生き物がフラフラになったというから、本当にウイスキーガロアだ。(0048につづく)
(上)エリスケイ島のエリスケイポニー。脚が短く、どこか神秘的な雰囲気が漂う。(下)バラ島にあるバラ空港は、干潮時しか発着することができない世界でただ一つの空港である。 一覧ページに戻る