2020-12-28
スコッチ【0045夜】『セイリング』は海の男達への鎮魂歌!?
イギリス出身のロック歌手、ロッド・スチュアートを知らない人はいないと思うが、ロッドはロンドン生まれだが、両親はスコットランド人。本人もそのことを意識していたのか、1975年に発売した初めてのソロアルバム『アトランティック・クロッシング』の1曲に、『セイリング』という曲を選んでいる。♬ I am sailing, I am sailing, Home again, Cross the sea, To be near you, To be free と、ロッドの甘い歌声でうたわれると、まるでラブソングのようにも聞こえるが、実はこれは、宗教的な意味合いを含んだ鎮魂歌ともいえる歌なのだ。
元歌を作ったのはスコットランド出身のフォークデュオ、サザーランドブラザーズで(1972年)、彼らが曲のインスピレーションを得たのが、祖母が暮らしていたハイランドのマレイ湾(北海)に面したクロヴィーという、小さな漁村だった。今は漁をする人はほとんどいなく、ホリデーコテージなどになっているが、かつては眼の前の海に小舟で乗りだし、ポラックやハドック(どちらもタラの一種)、ニシンなどを獲っていたのだという。背後は崖が家の裏までせまり、家の玄関から手をのばせば海に届きそうな、そんな隠れ里のような漁村で、波の高い日には、波しぶきが家々の屋根まで打ちつけたという。
以前、この千夜一夜でアイルランドのカラハという小舟を紹介したことがあるが(0008)、スコットランドではこの小舟をコラクル、あるいはナイベイグと呼ぶ。一人か二人乗ればいっぱいになってしまうような船で、人々は命がけの漁に出た。『セイリング』という曲は、そんな命がけの漁に出る漁師たちのことを歌った曲で、「あなたのもとに帰りたい、あなたの傍にいたい」と言っているのは、母や妻であると同時に、イエス・キリスト、神への祈りでもある。
サザーランドブラザーズのCDは日本でも出ているので、ぜひロッドの『セイリング』と聴き比べてみてほしい。サザーランドブラザーズが歌う『セイリング』は重厚な音の響きが、まるでレクイエムのようにも聞こえる。もちろん、その時にはマレイ湾に面したインチガワーやグレングラッサのシングルモルトがあれば、言うことはない。いやウイ文研のオリジナルボトルの「マクダフ」のラベルにこのクロヴィーの写真を使っていた。それがあればパーフェクトだ。
ウイスキー文化研究所のオンラインショップで販売しているオリジナルボトル『マクダフ 2002 15YO ウイスキーフェスティバル2018 in 東京 記念ボトル』。 一覧ページに戻る