2020-12-25
スコッチ【0044夜】蒸留所の温排水でウナギを養殖
蒸留所では麦汁の冷却や、蒸留の際のアルコール蒸気の冷却などで大量の温排水が出てくる。冷却に温排水というのも変な話だが、これは熱変換システムで冷却水が温水に変わるためだ。かつては、この温排水の処理にどこの蒸留所も頭を悩ませてきて、これを有効利用しようと様々な試みが行われてきた。
アイラ島のボウモア蒸留所では、これを使って温水プールをつくり、島民に提供している。アイラは四方を海に囲まれているが、この温水プールができるまで、ほとんどの島民が泳げなかったというから驚きだ。夏でも気温が20℃を超えることがなく、海水温も15℃前後なのだから、海水浴とは無縁。カナヅチでも仕方がないかもしれない。
東ハイランドのグレンギリー蒸留所は、この温水を使ってトマトや葉物野菜などを育てていた。そのためのビニールハウスが蒸留所に併設されていて、アバディーンの市場にも出荷されていたというから本格的だ(今はすべて撤去)。
しかし、もっともユニークなのはトマーティン蒸留所である。トマーティンは1897年に北ハイランドで創業した蒸留所で、1970年代にはポットスチル23基を有する、スコッチ最大級の蒸留所だった。年間生産量も1200万リットルだったというから、当時としては世界最大の蒸留所だったかもしれない(今は180万リットルほど)。当然、温排水も大量に生じ、この温水を使ってトマーティンがやっていたのが、ウナギの養殖であった。
いつから、いつまでやっていたのか詳しいことは分からないが、この試みはまったく成功しなかった。ウナギは大西洋ウナギで、日本のウナギ同様、赤道近くの深海で産卵し、ヨーロッパやイギリス、スコットランドの河川などに遡上する(ネス湖の大ウナギは有名)。しかしウナギはヨーロッパではあまり人気の魚とは言い難い。そもそも日本のようなカバ焼きなんてないし、料理法もせいぜいブツ切りにして煮込むようなものばかりだからだ。
でも、このアイデア、悪くない気がする。これだけシラスウナギが高騰し、ウナギが超贅沢品になっている今なら、蒸留所の温排水で育ったウナギは売れるような気がする。ピートやオーク樽で燻製したスコットランド産のウナギがあれば、食べてみたいと思うウイスキーファンは多いのでは…。
トマーティン蒸留所の外観とポットスチル。ウナギつながりではないが、トマーティンは、日本企業が所有した第1号の蒸留所としても有名である。 一覧ページに戻る