2020-12-24
スコッチ【0043夜】アイラ島のイエローサブマリン事件
ウイスキーの世界でイエローサブマリンと言ったらビートルズではなく、ブルックラディのことを指す…と、書いたら驚くだろうか。実はちょっと古い話になるが、2006年にブルックラディが「イエローサブマリン」というボトルを出して話題になったことがある。
コトの発端はその前年の05年に、アイラ島の漁師が海にプカプカ浮かぶ黄色い物体を見つけたこと。そのまま船でポートエレン港に引いてきて、桟橋に陸揚げした。それは明らかに軍関係の物と思われたので海軍に連絡をしたが、当初英海軍はそれを否定した。しかしアイラの島民がこんな“珍事件”を放っておくはずがなく、ならばということで新聞社やテレビ局に謎のイエローサブマリンとして通報してしまった。そのことでマスコミは大騒ぎとなり、英海軍も最後は渋々それが自分たちの無人の潜水艇であることを認め、引き取りにきたという。
その時にブルックラディのジム・マッキューワン氏が船長にプレゼントしたのが、その潜水艇の写真をラベルにあしらった「イエローサブマリン」だった。リオハの赤ワイン樽で後熟を施した限定品のブルックラディだったが、海軍関係者にとってはまったく喜べないプレゼントだった。なぜなら、それは公にしたくない軍の機密作戦で、秘密裏にアイラ島沖で機雷の掃海訓練を行っていた時にコントロールを失い、漂流させてしまったという前代未聞の大失態だったからだ。
しかも、これは後でわかったことだが、このフランス製のハイテク機材(1基数億円もする!)には実戦を想定した爆薬が積まれたままだった。島民はそのことをまったく知らされておらず、もし間違って爆発したら桟橋ごと吹き飛んでしまうという大惨事になったかもしれないのだ。
知らぬが仏とは、まさにこのことだが、それにしても、さすがジムさんと言うべきか、商売上手と言うべきか、その様子はテレビを通じてイギリス中に放送され、ブルックラディの「イエローサブマリン」は、あっという間に売り切れになってしまったのだとか。
ブルックラディ社の限定シングルモルト『イエローサブマリン』と、見つかったイエローサブマリンの実物。後日談だが、ブルックラディ社は、この実物をオークションで落札している。こんなものがオークションで出品されたことも”珍事件”のような気もするが…。 一覧ページに戻る