2020-12-21
スコッチ【0040夜】再び注目を集めるジョージ・オーウェルの1984
ジュラ島はアイラ島の北隣にある細長い島で、面積は約370㎢。620㎢のアイラ島の5分の3ほどだが、人口が極端に少なく、アイラが約3400人であるのに対し、ジュラは180人。それに対して野生の鹿が5000頭近く棲息し、昔から“鹿の島”といわれていきた。そのジュラ島に1810年に創業したのが、ジュラ蒸留所だ。ただし現在の蒸留所は1963年に新しく建てられたもので、昔のジュラ蒸留所とは関係がない。このジュラ蒸留所が90年代にボトリングしたのが、「1984年」というボトルだ。
実はジュラ島は作家ジョージ・オーウェルが「1984」を執筆した島としても知られている。オーウェルの本名はエリック・ブレアで、1903年にインドで生まれている。父方はスコットランドの出身で、長年あたためていた小説の執筆の場として選んだのが、父祖の地、スコットランドのジュラ島であった。
オーウェルがジュラにやってきたのは第2次世界大戦直後のこと。島の北端にあるバーンヒルコテージを借りて、そこで自給自足に近い生活を送った。『カタロニア讃歌』や『動物農場』で作家としての地位を確立していたオーウェルにとって、何よりも必要だったのが文明とは隔離された世界。ジュラ島は、その点うってつけだった。バーンヒル荘の10マイル四方には1軒の民家もなく、もちろん電話も電気もない。
小説『1984』はビッグブラザーと呼ばれる一人の独裁者に支配された全体主義国家の悲哀をテーマとしたもので、ディストピアの典型的な作品だ。タイトルにある1984は物語の設定年で、近未来小説という形をとっていた。オーウェルはすでに結核を患っていて、執筆は必ずしも順調ではなかったが、3年後に完成。1949年に初版が刊行された。1984年と付けたのは、完成したのが1948年だったからである。
このコロナ禍の中で、再びオーウェルの小説に関心が集まっているが、ジュラ蒸留所はそれ以降、1984ヴィンテージのボトルを出していない。ジュラには、ぜひ、また1984ヴィンテージのボトルを出してほしいが、出そうにももう原酒が残っていないのかもしれない。
上から、バーンヒルコテージ、ジュラ蒸留所、ジョージ・オーウェル氏。『1984』の設定では、世界が、ユーラシア・オセアニア・イースタシアという3つの超大国によって支配されており、人々は政府からの厳しい監視を受けながらの生活を強いられている。 一覧ページに戻る