2020-12-11
スコッチ【0034夜】ボルドー産赤ワインにスコッチを一滴…
バルモラル城とクイーンマザー、ロイヤルファミリーの釣りについては0033で紹介したが、ロッホナガー蒸留所がなぜロイヤルと言われるようになったかは、まだ紹介していなかった。ディー川の畔にロッホナガー蒸留所が建てられたのは1845年のこと。創業者はジョン・ベグで、その3年後の48年に隣のカントリーハウスを購入したのが、ヴィクトリア女王だった。女王が即位したのは1837年。41年にアルバート公と結婚すると、毎年夏にはハイランドで過ごすのが恒例となった。その時気に入って買ったのがバルモラルハウスで、ここを女王みずからがデザインして、城に改修していった。
ある日、隣に引っ越してきたのが女王一家だと知ったジョン・ベグは、「見学にいらっしゃいませんか」とレターを書いたという。それはドイツ出身のアルバート公が機械好き、新しもの好きと聞いていたからだ。もちろん、期待をしていたわけではない。ベグにしてみれば軽い挨拶のつもりだったのだろうが、その翌日、何の前触れもなく女王一家は突然やってきた。それも、のちのエドワード7世となる息子たちも引き連れて。
慌てたベグだったが、女王一家を最大限にもてなした。特にアルバート公は熱心にベグの説明を聞いていたというが、それからすぐに女王からのお礼の手紙と、女王御用達の証であるロイヤルワラント(勅令状)がベグのもとに届けられた。以来、ロッホナガー蒸留所はロイヤルと頭に付けて、ロイヤルロッホナガーを正式名称としてきたのだ。現存する蒸留所で、これが許されているのはロッホナガーとロイヤルブラックラの2つしかない。
ヴィクトリア女王は“ハイランドブーム”を英国の上流階級にもたらした張本人だが、以来ロッホナガーのモルトも気に入り、大好きなボルドー産赤ワインにロッホナガーを一滴たらして飲まれたという。はたしてそれがスコッチにとってもボルドーの赤ワインにとっても、良いことだったのかどうか。今となっては大いに疑問が残る…。
ロイヤルロッホナガーの2基のスチル。ボルドー産ワインといえば、ヴィクトリア女王も訪問した1855年のパリ万博で、現在の5大シャトーのうちの4つのシャトーが第一級の称号を与えられている。 一覧ページに戻る