2020-12-08
アイリッシュ【0032夜】テロワールを極限まで追求したアイルランドの蒸留所
以前、オークニー諸島のベア大麦と、それを使ったミシェル・クーブレイ氏の話を紹介したが(0027)、大麦の品種、特にそのテロワールにこだわったのが、アイラ島のブルックラディ蒸留所だった。ブルックラディが、マーレイマクダビッド社のマーク・レイニエー氏や、前ボウモアのブランドアンバサダー、ジム・マッキューワン氏らによって再建されたのは2001年のこと。
マークさんはロンドンベースのワイン商で、若いころからフランスのシャトーで修業していたという。そのマークさんが、「スコッチといっているのに、原料の大麦がスコットランド産でないのはおかしい」と言って、テロワールの概念を初めてウイスキーに持ちこんだのが、ブルックラディであった。以来スコットランド産、アイラ産の大麦にこだわってきたが、そのマークさんがブルックラディを離れたのが2012年。持ち株をレミーコアントロー社に売った資金を元手に、新たに取り組んだのが、アイリッシュのウォーターフォード蒸留所だった。
ウォーターフォードがオープンしたのは2015年。ここはもともとギネスのビール工場だった建物で、それをウイスキー蒸留所に改造した。マッシュタンに代わるマッシュフィルターなど、最新鋭の設備も導入されているが、マークさんがこだわったのが、ブルックラディの先を行く究極のテロワールだった。現在までにアイルランドの72の農家と契約し、それぞれの農家ごと、畑ごとに別々の仕込みを行い、それを4年間アメリカンホワイトオークとフレンチオークの新樽で熟成させ、農家ごとにボトリングする。これが“シングル・ファーム・オリジン・シリーズ”で、第2弾となるそのボトルが日本でも数量限定で発売された。
バリーキルカバンにある1639年から続く農家で、そこが栽培したタベルナ種の大麦を使っている。ちなみにマークさんたちの分析によると、アイルランドには18の異なる大麦畑の土壌があるといい、その土壌ごとに仕込みも分けられているという。
(上)ギネスのビール工場を改造したウォーターフォード蒸留所。「WATERFORD」の文字が確認できる。(下)奥の黒いモニターと○印に注目してほしい。これはアイルランドの地図を表しており、72の契約農家の稼働状況をリアルタイムで確認できるのだ。 一覧ページに戻る