2020-12-04
スコッチ【0030夜】民謡の傑作といわれる『スカイ島の舟唄』
カローデンムーアの戦いについては前回紹介したが(0029)、ジャコバイト党のリーダーだったボニープリンス・チャーリーは奇跡的にその場を逃れることに成功し、その後はスコットランド各地を転々とした。王子を追跡するカンバーランド軍の探索はし烈を極め、王子の首には3万ポンドという巨額の賞金がかけられた。当時の3万ポンドは、現在の金額になおすと、おそらく何十億円になるだろう。ハイランドの隅々、ヘブリディーズ諸島の島々にまで密偵が放たれ、必死で王子を追ったが、スコットランドの民で、イングランド軍に協力する者はほとんどいなかった。結局王子はこの年9月にフランスの軍船によって救助され、無事フランスに帰還。その後スコットランド独立の夢を再度追ったが、一度もスコットランドにもどる機会を得ることなく、旅先のイタリアで急死している。
王子の逃避行のクライマックスを唄ったのが『スカイボートソング』だ。アウターヘブリディーズのベンベキユラ島から、インナーヘブリディーズのスカイ島に王子を逃がす場面で、これは史実を基に作られている。その逃避行を託されたのがスカイ島の豪族マクドナルド家のフローラ姫で、フローラは王子に女装をさせ、自身の召使と身分を偽り、追手の眼をごまかしたのだ。荒れ狂う闇夜の海に小さなボートで漕ぎだしたフローラたち。“♬スピード・ボニーボート・ライク・ア・バード・オン・ナ・ウイング”と、舟唄をうたう。意味は、翼がはえた鳥のようにスピードを上げよということだ。そして“オーバー・ザ・シー・トゥ・スカイ”と続く。海の彼方のスカイ島へと、である。哀調漂う美しいメロディーに、涙を誘う歌詞。民謡の傑作として今でも多くの歌手によって唄われている。
その詩を読み、メロディーを聴いていると、まるでカローデンの戦が昨日のことのように思い浮かぶというのが、多くのスコットランド人の感想なのだろう。
(上)100年前に建造された小型帆船のエダフランセン号に乗ってスカイ島沖をクルーズする。2005年のクラシックモルトクルーズでの1コマだ。(下)ボニープリンスはスカイ島のポートリー港から再び小舟に乗ってラッセイ島に渡った。この時、助けたのがラッセイ島の男たち。その後ラッセイ島の住民は女・子供にいたるまで皆殺しにされた…。 一覧ページに戻る