2020-11-30
スコッチ【0027夜】M・クーブレイのシングル・シングル・ベアバーレイ~その①
オークニー諸島のベア大麦とベアバノックのことを紹介したついでに、ミシェル・クーブレイ氏の「シングル・シングル・ベアバーレイ」についても書いておきたい。クーブレイ氏は仏ブルゴーニュ地方のボーヌで自社畑とセラーを持つワイン商。そのクーブレイ氏が、自分の哲学を反映させたウイスキーを造りたいと取り組んだのが、スコッチをボーヌに持ってきて、自らが選んだシェリー樽で熟成させることだった。それも究極のスコッチとして彼が1985年から86年にかけて試みたのが、古代品種のベア大麦を使ったウイスキーの仕込みだった。
当時、ベアを育てていたのはオークニーだけ。そこで彼はオークニーに飛び、ベア大麦を手に入れようとしたが、メインランド島では手に入らず、ウエストリー島の農家から、ようやく入手に成功。その量は確か5~6トンだったと記憶するが、今度はそれを麦芽に加工しないといけない。
問題は誰もベア大麦の製麦をやったことがなかったことと、大麦にはドーマンシーという、発芽休眠期間があることだった。今の品種なら収穫後1~2カ月で製麦に取りかかることができるが、ベア大麦のドーマンシーは半年以上。したがって手に入れた大麦を麦芽に加工できるまで、数カ月も待たなければならない。さらに、どこで製麦をやるかも問題だった。
ミシェルさんが交渉したのが、同じオークニーのハイランドパーク蒸留所。幸いここは昔ながらのフロアモルティングをやっていて、使うピートも蒸留所独自のもので、オークニー産である。ハイランドパークのモルティングの一回の仕込みは8トン。それには少し足りないが問題はない。蒸留所の職人たちも、ベア大麦をフロアモルティングするのは初めてだったという。
ただし、無事製麦を終えた麦芽をハイランドパークでは仕込んでもらえなかった。やはり勝手が違いすぎ、通常の仕込みの合い間に特別な仕込みを組み込むことは不可能だったのだ。では、どこで糖化・発酵・蒸留をすればよいのか。(0028につづく)
ベア大麦の製麦を手がけたハイランドパーク蒸留所と、M・クーブレイ氏の熱意によって生まれたボトルたち。右の3本は、おそらくクーブレイ氏の死後に発売されたボトルたちだ。 一覧ページに戻る