2020-11-19
スコッチ【0021夜】産業革命の歴史的建造物がウイスキー蒸留所に…
1960年代のスコッチウイスキーブームの頃にいくつかの新しい蒸留所がオープンしているが、産業革命当時の古い工場を蒸留所に改造したというのは、このディーンストンくらいかもしれない。ディーンストンの創業は1965年。建物は“産業革命の父”といわれたリチャード・アークライトが設計したもので、赤レンガ造りの重厚な建物となっている。1785年に建造されたこの工場は綿花から糸を紡ぐ紡績工場で、そのための工夫が随所にされている。ひとつは豊富な水資源。紡績機を動かす動力は当時水力で、そのために工場の横を流れるティス川から水を引き、巨大な水車を動かしていた。ティス川はスぺイ川に次ぐ急流といわれ、上流から引いてきた水をダムで貯め、それで水車を回していたのだ。現在は水車は外されたが、独自の発電機2基を設置し、蒸留所の電力をすべて、この自家発電でまかなっている。
もうひとつはクーラーのなかった時代に、綿花を保存・貯蔵をするために、湿度・温度を一定に保つ工夫がされていたこと。これが6階建ての建物最上部につくられたコットンシェッド(貯蔵庫)で、なんと湿度を保つため屋上には1メートルの厚さで土が盛られ、そこで職人たちが食べる野菜を育てていたという。つまり、今はやりの屋上菜園を250年前にやっていたことになる。そのため、その下の綿花貯蔵庫はいつも湿度を保つことができたが、土の重量にたえられるよう、倉庫の天井はアーチ型になっていて、重力を分散させる工夫がなされているのだ。
豊富な水資源と自家発電設備、そしてウイスキーの貯蔵にうってつけの貯蔵庫があることが、この工場をウイスキー蒸留所に改造した理由のひとつとなっている。もちろん建物は産業遺産として、歴史的建造物に指定されているため、取り壊しは禁じられていて、保存が義務付けられている。博物館にするより、ウイスキー蒸留所として活用したほうが経済的という、論理も働いていたのだろう。
赤レンガ造りの外観と、アーチ状の天井の倉庫。使えるものを有効活用していくというのも、ある意味”産業革命”なのかもしれない。 一覧ページに戻る