2020-11-16
スコッチ【0020夜】金と銀で繁栄した本土最北の蒸留所とウィックの町
旧UD社の“花と動物シリーズ”ではないが、ニシンをシンボルとしている蒸留所がある。北ハイランドのウィックの町にあるプルトニー蒸留所だ。北海に面したウィックは、かつてヨーロッパ最大といわれたニシンの水揚げ港で、19世紀後半から20世紀初頭にかけ、1000隻を超えるニシン船がウィックに集結したといわれる。ニシンは当時ロシアやバルト3国へ塩詰めされて出荷されたり、キッパーズ(0065)という燻製に加工された。これは今でも、スコットランドの朝食の定番として観光客にも人気が高い。
ウィックにはその加工場もあり、最盛期には1万人を超える労働者が働いていたという。当然、治安は悪化し、過酷な労働ゆえにアルコールに溺れる者も続出し、アル中患者が町にあふれたという。そこで、当時ウィック市議会が定めたのが、ウィックでの禁酒法であった。当時ローカル単位の禁酒法は許されたというが、実際に施行に踏み切ったのはウィックだけである。
ウィックの禁酒法は1922年に成立し、1947年までの25年間続いた。それ以前、プルトニー蒸留所はニシン産業とともに成長し、一時期、「ウィックは金と銀で成り立っている」と言われたほどだったが、プルトニーはその後20年近い生産停止を余儀なくされてしまった。ちなみに金はプルトニーのウイスキーのことで、銀はもちろん、ニシンのことである。
もうひとつ、プルトニーは人工的に造られたプルトニータウンという漁師町に建つ蒸留所だが、このプルトニータウンの造営を担ったのが、『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』で有名なスコットランドの作家、ロバート・ルイス・スチーブンソンの父で、ロバート青年も学校が休みの時は、父親がいるこのウィックの町をよく訪れていたという。スチーブンソン家は代々建築技師として知られた一家で、スコットランドの数多くの燈台の設計も手がけている。
ウィックの港とプルトニー蒸留所。古今東西を問わず、土地の繁栄とお酒は切っても切り離せない関係? 一覧ページに戻る