2020-11-13
ワールド【0018夜】ヴィクトリア女王とボンベイサファイア
今夜はウイスキーではなく、ジンのお話。TWSCでジンのオンラインセミナーをやった時に、1番目に取り上げたのがボンベイサファイアだった。このブランドは1987年にできたそうだが、ボトルに描かれている人物に、どこか見覚えがないだろうか。そう、イギリスのヴィクトリア女王にそっくりなのだ。親会社のバカルディ社は「似た人物でヴィクトリア女王ではない」としているが、ボンベイといえばインド最大の都市(現在はムンバイと地名変更)。サファイアは宝石のサファイアで、誰が見てもヴィクトリア女王を連想してしまうのだが…。
ヴィクトリア女王とサファイアといえば、女王が1840年にアルバート公と結婚した時、アルバート公からプレゼントされたのが、ダイヤとサファイアをあしらった宝冠だった。もともとサファイアは女王のお気に入りで、愛する夫からのプレゼントということもあり、女王は一生涯大事にしていたという。この宝冠、現在はロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館に収蔵されているが、そこには11個の大きなサファイアが装飾されているのだ。
もちろん当時インドはイギリスの植民地。さらに、北部カシミール地方はサファイアの数少ない産地として知られていた。この宝冠のサファイアは違うが、1880年代にカシミールのザンスカール山中で、サファイアの鉱石が見つかり、当時のカシミールのマハラジャ―が1887年まで鉱山経営をしていたという。わずか6年で枯渇したという話だが、ここで掘り出されたのが、“幻のサファイア”と呼ばれる、貴重なカシミールサファイアだ。その稀少性と美しさゆえに、今ではオークションくらいにしか登場しないが、そのたびにトンデモナイ高値がつくという。
ちなみにザンスカールはヒマラヤの秘境で、カシミールというより、チベット文化圏のラダックの一地方である。1976年から81年にかけて、私はザンスカールに半年ほど暮らしたことがあるが、その時はサファイアのことは全く知らなかった。鉱山は標高4500メートルの地にあったというが、その時にこの話を知っていれば…。
ボンベイサファイアとザンスカールの秘境。今でもどこかにサファイアブルーの世界が広がっているのだろうか?ついつい淡い期待を抱いてしまう…。 一覧ページに戻る