2020-10-08
スコッチ【0002夜】仕事ほど楽しいものはない…
人生で仕事ほど楽しいものはない――今そう言ったらワークホリック、仕事中毒者とののしられそうだが、19世紀後半から20世紀初頭のイギリスは、戦後の日本以上にモーレツ社員と経営者が多かったのだろう。特にヴィクトリア朝のスコットランドはアントレプレナー、起業家が続出した時代で、数々の世界的なブランドがこの頃に誕生している。後世“デュワリズム”と呼ばれ、その言動が終日ロンドンのマスコミを賑わせたトーマス・デュワーもその一人。
トーマスは、かの有名な「デュワーズ」の2代目。兄のアレクサンダーが製造とブレンドを任され、弟のトーマスがロンドン市場、ひいては世界市場のマーケティングを任せられた。ウィットとユーモアに富むトーマスの一挙手一投足はロンドン中の注目の的で、またたく間にロンドン市場を席捲。2度の世界一周セールス行脚では、各国に代理店を置くことに成功している。同郷の実業家、アンドリュー・カーネギーの求めに応じ、アメリカの大統領府であるホワイトハウスに、ウイスキーを届けた話は有名だ。ちゃっかり、そのことを宣伝に使い、アメリカ市場でNo.1スコッチの座を確立した。今でもデュワーズは、アメリカ市場でトップの座をキープし続けている。
もちろん、人生を謳歌したことは言うまでもない。生涯独身を通したが、流した浮名は数知れず。「女性には手紙を書くな。そうすればトラブルに巻き込まれない」というのも、トーマスの面目躍如たるものがあるが、新聞記者に老いについて聞かれた時の応答もふるっている。
「人々が年齢(エイジ)について関心を持つのは、それがボトルに詰められた時だけだ」。ウイスキーバロン(男爵)と呼ばれたトーマスは、まさに大英帝国の象徴ともいえる存在だったのだ。