2020-10-06
スコッチ【0001夜】灰色リスにテリトリーを奪われた赤リス
ウイスキーには動物をシンボルとしたものが非常に多い。たぶん、それだけで100話くらい書けそうな気がするが、今ちょうど『モルトウィスキー大全』のファイナル版に取りかかっているので、安直だがアバフェルディから1つ。アバフェルディはデュワーズの原酒確保のために、テイ川上流部に1896年に建てられた蒸留所だ。そのアバフェルディがシンボルとしているのが赤リス。かつてラベルにも描かれていたし、現行のボトルではキャップにその姿が描かれている。現在はバカルディ社の所有だが、UD社時代には“花と動物シリーズ”のボトルで知られ、そのシンボルも当然、赤リスだった。
実は赤リスはイギリスの在来種だが、20世紀になって北米原産の外来種、灰色リスにそのテリトリーを奪われ、現在では湖水地方や、スコットランドのハイランド地方の森でしか見かけられなくなったという。日本の台湾シマリスとよく似た例かもしれない。私はロンドンに5年近く暮らしたが、我が家に遊びに来るリスも、公園で愛らしい姿を見せるリスも、そういえばすべて灰色リスだった。まさかそれが外来種だったとは、アバフェルディを取材するまで知らなかったが、湖水地方を舞台とするベアトリクス・ポッターの『ピーター・ラビットのおはなし』に登場するリスのナトキンも当然赤リスだ。
それはともかく、一般のスコットランド人にとっても、現在赤リスの姿を見かけることは滅多にないだろう。私もハイランドのグラミス城に行ったとき、一度だけ見たことがあるくらいだ。もちろん、アバフェルディで見たことはない。湖水地方のレイクス蒸留所は、まさにリスのナトキンの話に出てくるダーウェント湖の近くにあるが、すでにアバフェルディがシンボルとして使っているため、使いたくても使えないのだろう。もっともピーターラビットが許可するとは思えないが…。
ロンドンのキューガーデンにいた灰色リス。(撮影:土屋守) 一覧ページに戻る